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伸ばそう血管年齢-血清脂質から考えた生活習慣改善-

柏市立介護老人保健施設はみんぐ 施設長/東京慈恵会医科大学
多田 紀夫 先生

高血圧症、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病は、毎日の食事や生活様式と密接に関係しています。血管を健やかに保ち、生活習慣病を防いで、長生きするためには、どんな食生活を心がければよいのでしょうか―。
2019年7月に京都市で行われた「第51回日本動脈硬化学会」市民公開講座での、多田紀夫先生(柏市立介護老人保健施設はみんぐ 施設長)の講演をご紹介します。

長寿の秘訣は食生活にあり

食事の重要性について、2017年に行われた調査(Global Burden of Disease)の結果をご紹介します。世界192か国の25歳以上の人の死亡率(感染症を除く)を調べたところ、1,100万人/年が食事関係の危険因子が原因で亡くなっていました。具体的には、食塩の過剰摂取、未精製の穀物・果実・ナッツ・野菜(食物繊維)、魚の脂(n—3系脂肪酸)の不足などによるものです。
科学誌の『Nature』には、「賢く生活することは、減量すること、血清コレステロールや血圧を低下させることによって、効果的に血管を強くして心臓を守り寿命を延ばす。その効力は禁煙に匹敵する」と記されており、ふだんからこうした意識を持って生活することが大切です。

日本人の平均寿命は、1947年には、男性50.1歳、女性54.0歳でした。それが、2018年には、男性81.3歳、女性87.3歳と、男女とも30歳以上、平均寿命が延びています。背景には、乳幼児死亡率の減少に加え、100歳以上の人(百寿者)が増えたことがあります。1963年には全国に153人しかいなかった百寿者は、2018年には69,785人と7万人に迫る勢いで増加しています。
しかし、平均寿命は延びても、健康寿命(介護を受けず、自立した生活が送れる期間)が延びていないという問題があります。現在、男性は約9年、女性は12年以上、寝たきりなどの介護が必要な状態で過ごしており、この期間をいかに短縮するかが課題となっています(図1)。

寝たきりの原因として要介護5となった割合で、もっとも多いのが脳卒中(30.8%)と認知症(20.4%)です。これらは、動脈硬化などの血管の病態とも関係する病気で、そこには食事が大きくかかわっています。

図1 平均寿命と健康寿命の差

長生きと食事の間にも、密接な関係があります。沖縄県は、長寿県ランキングで1985年まで首位を守っていました(図2)。しかし、2000年に男性の平均寿命が26位に転落。「26ショック」といわれ、社会問題にもなりました。その後も順位は下げ止まらず、2010年には女性3位、男性30位となり、今度は「3.30クライシス」といわれました。

図2 日本人男性の都道府県別の寿命ランキング

沖縄がまだ長寿県の第1位だった当時(1978年)、摂取エネルギーは本土の日本人に比べて17%少なく、その結果、心血管病やがんによる死亡が30~40%も少なかったことがわかっています。つまり「食べ過ぎない」ことが、長寿につながっていたと考えられます。
エネルギーの摂取制限(節食)が長寿につながることは、さまざまな動物や昆虫でも実証されています。節食により肥満が改善すると、血圧は下がり、血管の老化を抑制する遺伝子が増加します。また、インスリン感受性が高まって、糖尿病になりにくくなるほか、炎症症状がなくなる、酸化ストレスが減るなど、多くのメリットがあるといわれています。

沖縄は、日本で最初に食生活の欧米化がみられた県で、アルコールも安く手に入ったことから、肥満やメタボリックシンドロームの人が非常に増えてしまいました。
内臓脂肪が増えると、脂肪細胞からさまざまな物質(アディポサイトカイン)が出て、脂質代謝異常、高血糖、高血圧の原因になります(図3)。これらを改善するには、その上流にある食べ過ぎや運動不足を改善する必要があります。つまり、メタボリックシンドロームとエネルギーの摂取制限は対極にあり、病気の進行を防ぎたければ、エネルギーをとり過ぎないことが重要です。

図3 メタボリックシンドロームと動脈硬化

炭水化物を賢く減らすには?

では、何を食べればよいのか、『日本人の食事摂取基準』をもとに考えてみましょう。まず、炭水化物は、どの年代でもエネルギー比で50~65%とることが推奨されています。私は「うどん県」といわれる香川県の出身ですが、炭水化物摂取に偏りがみられ、野菜摂取の少ない香川県や徳島県、青森県は、糖尿病死亡率が高いことがわかっています。
最近、さまざまな減量食も登場していますが、短期間で減量したい場合は、炭水化物を減らすのが効果的といわれています。一方で、最新の疫学研究では、炭水化物は摂取エネルギー比で45~60%を理想的とし、炭水化物摂取をそれ以下に減らす場合、動物性たんぱくや脂肪(肉や乳製品など)に置き換えると死亡率が上がりますが、植物性たんぱくや脂肪(大豆や豆腐、植物油など)に置き換えると死亡率はさらに低下すると報告しています。ここでも賢い選択が長生きのコツとなります。

炭水化物のうち、5%を脂肪に置き換えると、血清脂質にどのような影響を与えるかを調べた研究があります(図4)。動物性脂肪に多く含まれる「飽和脂肪酸」、オリーブ油などに多く含まれる「一価不飽和脂肪酸」、一般的な植物油に多く含まれる「多価不飽和脂肪酸」のうち、どの油に置き換えても、中性脂肪は下がり、HDLコレステロール(善玉コレステロール)は上がります。したがって、中性脂肪が高い人は糖質をどの油に置き換えてもよいのですが、飽和脂肪酸を増やすとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が上がってしまうため、注意が必要です。

図4 5%の炭水化物施主エネルギーを志望に置き換えた場合の血清脂質の変化

食事は、高血圧症、脂質異常症、糖尿病をはじめ、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞など)の原因になります。それらすべてにかかわる動脈硬化の進行を抑えるためには、血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド:TG)をいかに制御するかがカギになります。
LDLコレステロールが高い人は、動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸を減らし、植物油に多い多価不飽和脂肪酸を積極的にとるようにしましょう。「卵は1日何個食べてもよい」という記事などもありますが、コレステロールが高い人は卵を減らすようにしてください。
HDLコレステロールが低い人は、糖のとり過ぎに注意が必要です。糖の摂取が多いと、HDLコレステロールが低くなり、中性脂肪が高くなります。また、糖は摂取エネルギーにも関連し、肥満を助長します。肥満は、高血圧や糖尿病の原因にもなりますので、太っている人は、ぜひ体重を減らす努力をしましょう。

    血清コレステロールと食事の注意点

    ①飽和脂肪酸の摂取量……摂取エネルギーの7%以下にしましょう。
    ②食事性コレステロールの量……卵(黄身)、臓物・レバー、鶏の皮などを減らしましょう。
    ③摂取エネルギー……エネルギーの過剰摂取に気をつけ、肥満にならないようにしましょう。

脂質は飽和脂肪酸を減らすことが重要

次に、摂取脂質について、脂質(脂肪)の構成成分には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、不飽和脂肪酸は一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類されます(図5)。飽和脂肪酸は、インスリン抵抗性を増悪させ、糖尿病の原因になりますが、多価不飽和脂肪酸には、インスリン抵抗性を改善させ、糖尿病を防ぐはたらきがあります。また、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えたら、明らかに冠動脈疾患の発症が少なくなったというデータもありますので、工夫しながら飽和脂肪酸を減らしていくことが大切です。たとえば、スプーン1杯(15g)のバターには7gの飽和脂肪酸が含まれていますが、これをスプーン1杯(15g)の大豆油に置き換えることで、5gの飽和脂肪酸を減らすことができます。

最近はやりのココナツオイルは、中鎖脂肪酸が多く、中性脂肪をすぐに上げない一方、飽和脂肪酸が非常に多く含まれています。パーム油も同様で、植物油のなかでも飽和脂肪酸が多いため、多価不飽和脂肪酸(サフラワー油や大豆油など)に置き換えるとよいでしょう。

図5 脂肪酸の種類と特徴

乳製品の脂肪にも注意が必要です。バターの代わりに用いられる固体マーガリンは、「トランス脂肪酸」のかたまりです。トランス脂肪酸は油の代用品として重宝されていますが、LDLコレステロールを上げHDLコレステロールを下げる、動脈の内皮機能を低下させ、血管に障害を与える、免疫機能を低下させるなど、健康へのさまざまな悪影響が指摘されており、ニューヨーク州などでは使用禁止になっています。固いマーガリンやショートニングに多く含まれるほか、植物油を高温に加熱する際に生じたり、使い古しのてんぷら油にも多いため、注意が必要です。

一方、積極的に食べていただきたいのが、多価不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)という魚油です。EPAは、血管の弾力性保持や内皮機能改善、抗炎症、脂質代謝改善など、動脈硬化の進展を防ぐさまざまな作用があることが知られており、魚をたくさん食べる人は冠動脈疾患が少ないというデータもあります。

最後に、食事のポイントをいくつかご紹介します。炭水化物摂取時に注意すべきこととして、Glycemic Index(GI値)があります。同量の炭水化物でも、食べてすぐに血糖値が上がるもの(GIが高い)と上がりにくいもの(GI値が低い)があります。動脈硬化から血管を守るにはGIの低いものをお勧めしますが、食べ過ぎには注意してください。前者は、砂糖、フランスパン、食パン、パンケーキ、餅など、後者には、玄米、胚芽パン、豆類などです。
食事のしかたにもコツがありますので、図6を参考に、食行動を見直してみましょう。

図5 接種エネルギーを減らすコツ(食行動十箇条)
まとめ(血管を守る食事ガイドライン)
  • (1) 生涯を通じて、未精製穀物を増やし、様々な彩の野菜を中心とする健康的な食事摂取パターンを継続する。
  • (2) エネルギー摂取量をBMI値(体重)の推移をみて適切に設定する。
  • (3) 糖質過多、動物性たんぱく、動物性脂肪に偏る食事をしない。
  • (4) 砂糖摂取量を制限し、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸と塩分量を制限する。
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