インタビュー

荒井 秀典 先生 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長

フレイルと動脈硬化 ~健康寿命を伸ばすためのフレイル対策~

荒井 秀典 (あらい・ひでのり)先生
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長

「フレイル」とは、どんな状態のことですか?

誰しも、年齢とともに体の衰えを感じるようになると思います。フレイルとは、さまざまな臓器の予備能力(心肺機能、骨格筋機能、免疫機能など)が加齢とともに低下していき、感染症などのストレスがかかった際に、生活機能が一気に落ちてしまい、元の身体機能に回復しなくなる脆弱(ぜいじゃく)な状態です。したがって、高齢になればなるほどフレイルになりやすくなりますが、高齢になっても活動的な生活をしており、ストレスがあっても元通りに回復する(健常な状態に戻る)方もおられます。

「フレイル=老化」ではないのですか?

フレイルは、老化の影響を自分の年齢以上に受けている状態で、健常な状態と要介護状態の間といえます。要介護状態になると、なかなか元の健常な状態に戻ることは難しいのですが、フレイル状態であれば、適切な治療により、元の健常な状態に戻ることが可能と考えられています。すなわち、年齢とともに徐々に機能は衰えていくものの、可逆性もあるということです。

フレイル状態になっているのに、何も対策をとらずに放置していると、要介護状態になってしまう危険性が高まりますが、持っている病気を適切に治療するとともに、栄養や運動習慣など生活習慣を修正することで、フレイル状態から脱却できることもわかっています。フレイルは早期発見と早期対策が大事なのです。

フレイルの危険因子には、どんなものがありますか?

もっとも大きな危険因子は年齢ですが、生活習慣病(とくに糖尿病など)や腎臓病、呼吸器疾患、心疾患、骨粗鬆症、がんなどにかかっている方は、フレイルになりやすいことがわかっています。たとえば、中年期から糖尿病の治療を受けている方は、糖尿病のコントロールを厳格に行うとともに、食事療法や運動療法を続けることで、高齢になったときフレイルにならないような体作りをしておくことが重要になるわけです。

フレイルかどうかは、どうしたらわかりますか?

フレイルの特徴として、

  • 疲れやすくなる
  • 活動量が少なくなる
  • 筋力が低下する
  • 動作が遅くなる
  • 体重が減る

があり、これら5つの徴候のうち、3つ以上該当する場合がフレイル、1~2つ該当する場合がプレフレイル(フレイルの予備状態)です。「基本チェックリスト」という介護予防に使われている25の質問票に、「はい」「いいえ」で答えることにより、ある程度フレイルかどうかの判定をすることも可能です。

フレイルになると、筋力の低下がひどくなったり、歩くのが遅くなったりすることがあります。これは筋肉の衰えが原因になっていることがあり、こうした状態を「サルコペニア」といいます。筋肉の衰えは、適正なたんぱく質・ビタミン・ミネラルの摂取とレジスタンス運動※を組み込んだ運動を行うことにより、たとえ高齢になっても回復させることができます。

※レジスタンス運動:筋肉に一定の負荷を繰り返しかけることで、筋力を保つ運動(スクワットや腕立て伏せ・ダンベル体操など)のこと。

フレイルには、3つのあらわれ方があります。動く、食べるなどの日常生活を営むために必要な身体能力が衰えてしまう「身体的フレイル」、外出減少や独居などにより社会とのつながりが希薄になる「社会的フレイル」、そして認知機能低下や抑うつなどの「精神心理的フレイル」です。フレイルの特徴はこの3つの要因がお互いに影響を及ぼし合って、次第に生活機能を悪化させることにあります。

生活習慣病がある場合、どうしたらフレイルを予防できますか?
荒井 秀典 先生 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長

生活習慣病のなかでも、糖尿病やメタボリックシンドロームは、フレイルのリスクと考えられています。また、生活習慣病は、心筋梗塞や脳卒中などの脳心血管病、心不全の危険因子となりますが、これらの病気があるとフレイルになりやすくなります。したがって、生活習慣病の管理においては、血管合併症の予防とともに「高齢期におけるフレイル予防」という視点が重要になってきます。

まず、65歳までは、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの管理はできるだけ厳格に行うべきと思います。食事療法・運動療法に加え、必要に応じて薬物療法を併用して、生活習慣病の管理を行います。一方、75歳以上の高齢者では、フレイル、サルコペニアにならないような配慮が必要であり、たんぱく質やビタミンDを十分に摂取したり、レジスタンス運動・有酸素運動を適切に行う必要があります。
肥満、糖尿病がある65~75歳までの食事療法については、薬物治療と併せて、個別性が重要になってきますので、骨格筋量のモニターなどを行いながら、骨格筋量が減らないような食事指導を適切に行うようにしています。すなわち、「メタボ対策」から「フレイル対策」へのスムーズな移行により、脳心血管病の予防とともに認知症などの他の要介護要因を減らして、健康寿命の延伸が図れるものと考えています。

動脈硬化とフレイルはどのような関係があるのですか?

心筋梗塞や脳卒中などの血管疾患にかかれば、活動性が低下し、身体機能が低下しやすくなります。とくに高齢者では、この傾向が顕著になります。最近の研究では、高齢者においてフレイル状態にある人は、より脳心血管病のリスクが高いと考えられています。理由として、フレイルの高齢者は、社会性が低下する傾向にあり、身体活動が低くなる傾向にあること、慢性炎症状態、酸化ストレスなどが、動脈硬化性疾患の発症に関連すると考えられています。

したがって、高齢者でフレイル状態にある方は、食事・運動、さらには適切な薬物治療を行うことにより、動脈硬化性疾患の発症予防に努める必要があります。一方、脳心血管病のある方は、身体活動や社会活動をできるだけ保ちながら、身体機能の維持に努め、フレイルを予防する必要があります。このように、フレイルと生活習慣病・脳心血管病は“双方向性”の関係にあること理解し、食事だけ気を付ける、社会活動だけがんばる、といった片方だけの対策にならないよう心がける必要があるでしょう。

2020年07月20日

一覧へ戻る

PAGE TOP