動脈硬化によって起こる病気

動脈硬化はひそかに進行し、さまざまな病気を引き起こします。
日本人の死因の上位を占める心臓病や脳卒中をはじめ、
動脈硬化が原因で起こる主な病気についてご紹介します。

心臓の病気(狭心症・心筋梗塞など)

虚血性心疾患はどうして起こる?

心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしています。この心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を供給している血管を「冠動脈(かんどうみゃく)といいます。

冠動脈に動脈硬化が起こって、血管の内側が狭くなったり〔狭窄(きょうさく)〕、詰まったり〔閉塞(へいそく)〕すると、心筋に十分な血液が行きわたらなくなり、心臓は酸素不足に陥ります。この状態を「虚血(きょけつ)」といいます。虚血が原因で起こる心臓病のことを「虚血性心疾患」といい、代表的なものに、「狭心症」と「心筋梗塞(こうそく)」があります。

虚血とは?

冠動脈で起こりやすい動脈硬化とは?

動脈硬化にもいろいろなタイプがありますが、冠動脈や頸動脈で起こりやすいのが、「粥状(じゅくじょう)動脈硬化」(アテローム動脈硬化)です。粥状動脈硬化は、血管の内側に、コレステロールがドロドロしたお粥(かゆ)のような状態で付着するもので、これが付着して傷ついた血管内に、プラーク(コレステロールの固まり)ができます。プラークが破れると血管の内側に血栓ができ、血液の流れを遮断してしまうと、心筋梗塞や狭心症の原因となります。

粥状動脈硬化は、欧米人に多く、日本人には少ないといわれていましたが、食生活の欧米化などに伴い、日本人にも増えています。

狭心症、心筋梗塞の症状は?

冠動脈が狭くなって、血液の流れが悪くなることで起こる病気が狭心症、血管内に血栓ができ、冠動脈が完全に詰まることで、心筋の細胞が壊死(えし)してしまうのが心筋梗塞です。

酸素不足に陥ると、心臓は「胸痛」という悲鳴をあげます。狭心症では、胸の中心部あたりに、締め付けられるような痛み、圧迫感が起こるのが特徴です。痛みが現れる部位は、みぞおち、のど、あご、左肩や左腕、歯などさまざまですが、10分程度安静にしていると症状は治まります。一方、強い痛みが30分以上続いたら、心筋梗塞の可能性があります。できるだけ早く、医療機関で血管を広げる治療を受けることが、心臓の機能を保つうえでも重要です。

狭心症と心筋梗塞の特徴

狭心症、心筋梗塞を予防するには?

狭心症や心筋梗塞の危険因子として、高コレステロール血症以外にも、高血圧、糖尿病、喫煙、ストレスなどがあります。危険因子が増えるほど、発症の危険も高まりますので、思い当たる人は、生活習慣を改善する、ストレスや不規則な生活を避ける、必要であれば治療を受けるなどして、危険因子を遠ざけるようにしましょう。

また、糖尿病がある人や高齢者では、冠動脈の狭窄が進んでも、症状が現れない場合があります(無症候性心筋虚血)。こうした危険因子がある人は、定期的に冠動脈の状態をチェックするなど、早期発見に努めることが大切です。

脳の病気(脳梗塞など)

脳梗塞ってどんな病気?

脳に酸素や栄養を送っている血管が動脈硬化などによって詰まると、脳の細胞がダメージを受け、さまざまな症状が現れます。これが、「脳梗塞(こうそく)」です。

「梗塞」とは、「ものが詰まり、流れが悪くなる」という意味です。脳の血管に血栓と呼ばれる血の固まりができ、そこから先へ血液が流れなくなると、脳の細胞は酸素や栄養を受け取ることができなくなり、壊死(えし)してしまいます。 脳梗塞は命にかかわるだけでなく、麻痺(まひ)や意識障害などにより、寝たきりの原因にもなるおそろしい病気です。

脳卒中と脳梗塞の違いは?

「脳卒中」は、脳の血管が詰まったり破れたりすることによって起こる病気の総称で、脳の血管が詰まって発症する「脳梗塞」と、脳の血管が破れて出血する頭蓋内出血(脳出血、くも膜下出血)に大別されます。いずれも命をおおびやかす危険な病気ですが、脳卒中のなかでもっとも多く、動脈硬化と関連が深いのが脳梗塞です。

脳卒中の種類

脳梗塞にはどんなタイプがある?

脳梗塞には3つのタイプがあります。日本人には、高血圧と関連が深いラクナ梗塞が多かったのですが、近年、コレステロールとの関連が深いアテローム血栓性脳梗塞が増えています。

脳梗塞のタイプ

(1)アテローム血栓性脳梗塞

脳や頸(くび)の太い血管に、ドロドロしたお粥(かゆ)状態のコレステロール〔粥腫(じゅくしゅ):アテローム〕が付着し、そこが破れてできた血栓が、血管をふさいでしまうものです。高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙といった動脈硬化と同じ危険因子が原因となっています。

(2)ラクナ梗塞

脳の細い血管が詰まって起こる小さな脳梗塞で、症状が出ない人もいるため、「かくれ脳梗塞」と呼ばれることもあります。最大の原因は、高血圧による動脈硬化といわれています。

(3)心原性脳塞栓症

心臓のなかにできた血栓がはがれて流れていき、脳の血管を詰まらせてしまうものです。心房細動などの心臓の病気が主な要因で、脳梗塞のなかでもっとも重篤といわれています。

脳梗塞の3つの病型

脳梗塞の危険サインは?

脳梗塞は突然、発症する病気です。顔や手足が麻痺したり、うまくしゃべれなくなるなど、おかしいと感じたら、迷わず救急車を呼ぶことが大切です。

また、脳に一時的に血流が行き届かなくなる「一過性脳虚血発作(TIA)」を起こすと、一時的に症状が現われる場合があります。症状はすぐに消失しますが、一過性脳虚血発作を起こした3人に1人は、のちに本格的な脳梗塞を起こすといわれています。こうした症状に気づいた場合は、専門医で検査を受けるようにしましょう。

脳梗塞のFASTチェック

大動脈の病気(大動脈瘤・大動脈解離)

大動脈瘤(りゅう)はなぜこわい?

大動脈は直径が約3㎝もある太い血管で、心臓から全身に血液を送る役目を果たしています。この大動脈の壁に動脈硬化が起こり、血管の一部がコブのようにふくらんだ状態を「大動脈溜(りゅう)」といい、起こる場所によって、胸部(上行・弓部・下行)大動脈瘤、腹部大動脈瘤などと呼ばれます。

大動脈瘤は、風船と同じように、大きくなり始めると、小さい力でも簡単にふくらみ、最後には破裂する危険があります。破裂するまで、自覚症状はほとんどありませんが、破裂すると激しい痛みが起こり、ショック死や突然死の原因となります。

そのままにしておくと、脳や心臓、腎臓、手や足に血液が流れなくなってしまうので、開胸・開腹手術で血管を再生したり、ステントといわれる筒状の金属をつけた人工血管を入れるなどの手術が必要です。

大動脈瘤の種類

大動脈瘤と大動脈解離(かいり)の違いは?

大動脈瘤は血管がふくらんでコブができるのに対し、大動脈の内膜(血管の中の膜)に亀裂ができ、それにより中膜が2層に引き裂かれ、そのすき間に血液が流れ込んでしまった状態を「大動脈解離(かいり)」といいます。いずれも、胸や背中に激痛が走り、命を落とす危険が高い病気です。

大動脈解離は、動脈硬化の危険因子のなかでも、とくに高血圧と関連が深いといわれています。

大動脈瘤のしくみ

どんな症状が出るの?

コブが大きくなると、食道が圧迫されて、ものが飲み込みにくくなることがあります。また、神経が圧迫されて、声がかすれる「嗄声(させい)」も特徴的な症状です。

腹部を触ったとき、コブが脈打つことに気づき、腹部動脈瘤が見つかった人もいますが、そのまま見逃してしまうことも多く、こうした危険サインに気づいたときは、放置せず、専門医を受診するようにしてください。

早期発見するためには?

大動脈瘤や大動脈解離は、動脈硬化で血管がもろくなっているために起こりますが、破裂するまではほとんど症状がありません。なかには、健康診断で受けたレントゲン検査で、たまたま病気が見つかるというケースもあります。

大動脈瘤や大動脈解離は、動脈硬化が進んでいたり、危険因子をたくさん持っている人に多いため、該当する人は、定期的に胸部や腹部のCTスキャンを撮るなどして、大動脈に異常がないか確認するようにしましょう。

末梢動脈の病気(閉塞性動脈硬化症)

末梢動脈疾患(PAD)ってどんな病気?

動脈硬化は、足(下肢)や腕などに血液を送っている末梢動脈にも起こります。こうした末梢動脈が詰まったり(閉塞)、血管の内側(内腔)が狭くなることで(狭窄)、さまざまな障害が起こる病気を、末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease:PAD)といいます。
(※末梢動脈疾患は、動脈硬化によるもの以外に、原因不明の「バージャー病」もあります。)

足(下肢)の血管

下肢に多い閉塞性動脈硬化症(ASO)とは?

末梢動脈疾患の多くは足に起こります。なかでも、動脈硬化によって足の動脈に十分な血液が行きわたらなくなる病気は「下肢閉塞性動脈硬化症」(Arteriosclerosis Obliterans:ASO)と呼ばれています。

閉塞性動脈硬化症は、血行障害のため、しびれ感や冷感などの症状が現れるほか、典型的な症状として「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」という症状がみられます。これは、「一定の距離を歩くと足が痛くなって歩けなくなるものの、数分休むと歩けるようになり、またしばらく歩くと足が痛くなる」ことを繰り返すのが特徴です。

さらに進行すると、安静時にも痛みが起こるようになり、最終的には、潰瘍(かいよう)や壊死(えし)を起こして、足を切断しなければならなくなるケースもあります。

閉塞性動脈硬化症の重症度(Fontaine分類)

閉塞性動脈硬化症になりやすい人は?

閉塞性動脈硬化症の危険因子は、動脈硬化の危険因子(高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満・喫煙など)と同じです。なかでも、糖尿病の人は、血流障害が起こりやすいといわれています。また、喫煙もこの病気の発症と大きく関係しており、ヘビースモーカーの人は、閉塞性動脈硬化症になりやすいといわれています。さらに、ほかの危険因子に加えて、喫煙がある場合には、間歇性跛行のリスクが高まることもわかっています。

何科を受診すればいいの?

閉塞性動脈硬化症は自覚症状が現れにくく、受診したときには、かなり重症化していることもあります。また、動脈硬化は全身性に進行するため、足に症状が現れたときには、心臓や脳の血管でも動脈硬化が進行している可能性があります。

閉塞性動脈硬化症かどうかは、四肢の動脈を触診したり、手足の血圧を同時に測る足関節上腕血圧比(Ankle Brachial Index:ABI)という検査をすれば、簡単にわかります。

足の痛みがあると、整形外科を受診しがちですが、冷えやしびれなどの症状がある場合は、循環器内科に相談するとよいでしょう。