コロナ禍での外出自粛における心と身体の管理法~特に高齢者における健康二次被害に関して~
東京大学 高齢社会総合研究機構(IOG)機構長 / 未来ビジョン研究センター 教授
飯島 勝矢 先生
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による自粛生活が長期化するなかで、人や地域社会とのつながりが減り、生活不活発を背景とした高齢者の健康二次被害という新たな問題が生まれています。高齢者では、たった2週間の寝たきりによって、7年間に失われるのと同じ量の筋肉が失われるといわれており、コロナ禍でも、いかに心と身体を健康に保つかが重要になっています。外出自粛が高齢者におよぼす影響やフレイルの予防法について、飯島勝矢先生(東京大学 高齢社会総合研究機構(IOG)機構長/未来ビジョン研究センター 教授)が解説します。
(※本講演は、2020年7月に行われた第52回日本動脈硬化学会総会・学術集会(共催:一般財団法人 住野勇財団)の市民公開講座「新型コロナウイルスに立ち向かう~動脈硬化学会からのメッセージ」において行われたものです。)
新型コロナウイルス感染症についての最新情報は、内閣官房ホームページ(https://corona.go.jp/)をご参照ください。
新型コロナウイルス感染症が高齢者に与える影響
高齢者を対象にしたインターネット調査によれば、2020年4月の1週間あたりの身体活動時間は、同年1月と比べて約3割(60分)も減少しており、この傾向は、どのような自立度レベルの方々にも共通してみられました。つまり、運動を継続できず、身体活動量が減少して、生活不活発になっている高齢者が非常に多いことがわかりました。
私のフレイル予防研究チームが、高齢化率の高い団地で外出自粛の長期化に伴う悪影響を調べたところ、「孤立」「生活不活発」「食の偏り」という問題がみえてきました。約40%以上の人で外出頻度が顕著に低下しており、「運動できない」「会話量が減っている」という声が多く聞かれたほか、高齢者の約13%は外出頻度が週1回未満に低下(閉じこもり傾向)しており、食事を簡単に済ませる、食事を抜くなど、「食」にも影響が出ていることがわかりました。
外出自粛の長期化が「フレイル」を助長する!?
フレイル(虚弱)とは、健常から要介護へ移行する中間の段階で、ちょっとしたことで要介護に移行しやすい状態のことをいいます(図1)。フレイルには、身体的フレイル(ロコモティブシンドローム、サルコペニアなど)、心理的・認知的フレイル(うつ、認知機能低下など)、社会的フレイル(独居、経済的困窮、孤食など)があり、これらの多面的要素による負の連鎖が起こることによって、自立機能を低下させるといわれています。
一方で、フレイルは、単なる年齢的な衰えとは異なり、早く気づけば、さまざまな機能を元に戻せる(可逆性)という特徴もあり、これが新型コロナウイルス感染症と共存する、ポストコロナ社会を生きるうえで重要になってくると考えています。
私たちが社会的フレイルのリスクを調べた研究によると、社会性の要素に関する7項目のうち、3項目以上当てはまる人は、5年間の要介護認定リスクが3.6倍も高いことがわかりました。つまり、高齢者の自立機能の維持には「社会機能」の影響が大きいといえます。 また、私たちの別の研究で、ある自治体における自立高齢者全員(49,238人)を対象に、3つの活動(①身体活動、②文化活動、③ボランティア・地域活動)とフレイルの関係について調べたところ、ふだんから①~③のずべての活動を行っている人に比べ、何も行っていない人がフレイルになってしまうリスクは16倍にのぼることがわかりました(図2)。さらに、運動習慣はあるものの他の活動をしていない人と、運動習慣はないが他の活動をしている人では、後者のほうがフレイルになるリスクは低く、たとえ純粋な運動習慣を持っていなかったとしても、地域に出て人とつながることがフレイル予防には重要なこともわかりました。おそらく、結果的に身体活動も多いことが推測されます。
<こんな傾向・状況があれば要注意 ‼>
●生活範囲が狭く、外出頻度も減った
① 生活の狭まり・目的のある外出が少ない(→週に1回も町外へ出ない)
② 外出頻度の低下(→半年前と比べて外出頻度が減った)
●家族・友人との交流が減った
③ 友人との交流(→週に1度も友人と食事をしない)
④ 家族との交流、孤食(→毎日三食ともひとりで食事をする)
●支えがない・不都合な環境
⑤ 人的サポート(→助けを求められる家族・友人がいない)
⑥ 一般資源へのアクセシビリティ(→自分や家族が食べ物を買うのに不都合)
⑦ 経済的困窮(→年収140万円未満、女性世帯収入120万円未満)
長寿社会に向けて~コロナ禍であってもフレイル予防に資する3つの柱
フレイル予防の3つの柱として、「身体活動」「栄養」「社会参加」をあげたいと思います。まず、「身体活動」では、動かない時間を減らし、自宅でできるちょっとした運動をすることで、身体を鍛えましょう。たとえば、座っている時間を減らし、その分、立ったり歩いたり、テレビのコマーシャル中に足踏みやつま先立ちをするなど、こまめに体を動かすようにします。また、筋肉の維持、関節が硬くならない対策としては、ラジオ体操をしたり、足腰の筋肉を鍛えるレジスタンス運動(スクワットなど)を行うのも効果的です。屋外の日の当たる場所での運動をおすすめしますが、人混み、「3密」は避けてください。
「栄養」では、こんなときこそ三食しっかり食べて、栄養をつけ、バランスよい食事を心がけることが大切です。身体(とくに筋肉)を維持するために大切な栄養素である良質なたんぱく質やビタミンD のほか、免疫力を維持するため、発酵食品(納豆など)、にんにくやショウガなどの薬味、ビタミン豊富な野菜や果物を積極的に食べるようにしましょう。
栄養では、「食」だけでなく「口」も重要です。口を清潔に保つことは感染症予防につながりますので、毎食後、寝る前の歯磨きを徹底しましょう。また、口を動かさないと「オーラルフレイル」(噛んだり飲んだりする機能が衰えて、滑舌が悪くなったり、食べこぼしが増えてくるような状態)の原因になります。しっかり噛んで食べる、意識的に歯ごたえのある食材を選ぶといった対策のほか、電話などを活用し、会話を増やすようにしましょう。
「社会参加」では、こんな状況だからこそ、家族や友人との支え合いが大切です。近くにいる者同士、また、電話やインターネットを使って、人との交流を維持し、孤立を防ぎましょう。高齢の両親をお持ちのご家族の方は、ぜひ交流を促していただければと思います。
私たちは、シニアがおうち時間を楽しく健康的に過ごす知恵として、「おうちえ」という媒体を発行しています。自宅での生活をさらに充実するために、またエンジョイできるようにするために、国民目線のテイストで、身近なヒントをユニークにそろえています。高齢者のみなさんに伝えたい情報を集めた「知恵袋」ですので、ぜひ参考にしていただければと思います(http://www.iog.u-tokyo.ac.jp/?p=4844)。
最後に、アフターコロナ社会に向けて、「3つの予防」をお願いしたいと思います。まずは、①3密を避け、感染しないようにすること、②生活不活発にならないよう注意すること、そして、③人とのつながり、社会性を保つことです。
これからは、新しい生活様式、地域での新しい集い方や人とのつながり方が、課題となってきます。さまざまな工夫を凝らしながら、前向きに、社会性を維持していただきたいと思います。そして、コロナ禍でやめていた活動を単にいつ再開するのかという考えではなく、このピンチをチャンスに変えていくために、個々人においても、そして、地域づくりの視点でも、新しい創造が必要です。
まとめ
- 外出自粛の長期化に伴い、高齢者の孤立、生活不活発、食の偏りが問題化している。
- フレイルの予防には、身体活動、栄養、社会活動がカギとなる。
- 人とのつながり、社会性を保ち、生活不活発にならないように過ごしましょう。
- 上記を踏まえたうえで、個と地域との両視点で、コミュニティづくりにおける新しい創造が必要です。