高血圧に負けない健康長寿のヒント

高血圧に負けない健康長寿のヒント

第41回日本高血圧学会総会 会長
日本高血圧協会 学会担当理事
旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野 教授
長谷部 直幸 先生

2018年9月、北海道旭川市の旭川市民文化会館において、第41回日本高血圧学会総会 市民公開講座が開催されました(共催:第41回日本高血圧学会総会/日本高血圧協会/オムロンヘルスケア株式会社、後援:カゴメ株式会社/北海道テレビ株式会社)。

テーマは、「健康寿命延伸は高血圧管理から ~さあ家庭で自分の血圧を測りましょう!~」。司会には、日本の高血圧研究を長く牽引してこられた島本和明先生(日本高血圧協会 理事長/日本医療大学 総長)と荻原俊男先生(日本高血圧協会 理事/森の宮医療大学 学長)を迎え、開会挨拶では、今回の学会長である長谷部直幸先生(日本高血圧協会 学会担当理事/旭川医科大学内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野 教授)が、「高血圧はきちんとコントロールさえしていれば、こわくない」ことを強調されました。

また、続く講演1では、老化を遅らせ、寿命を延ばす方法として、高血圧や肥満の予防、禁煙、運動習慣をつけることの大切さを、ユーモアを交えながら解説。減塩、減量、節酒といった具体的な生活習慣の修正ポイントが紹介されました。

健康寿命延伸には高血圧の制圧がカギ

2018年9月16日に、私の地元である北海道旭川市で主催いたしました第41回日本高血圧学会総会に連携する市民公開講座を担当させていただきました。

2017年、日野原重明先生が105歳でご逝去されました(図1)。日野原先生は、われわれ医師のお手本でしたが、すべての高齢者のお手本でもあり、元気が出る長寿の理想の姿を、身をもってお示しいただきました。日野原先生の数々のエピソードは、私の生涯の財産になっております。

近ごろの世の中を見渡しますと、元気な高齢者が多いことに驚きます。2018年の敬老の日の時点で、わが国の百寿者は69,785人おられ、100歳を超えることは少しも珍しくありません。平均寿命は男性81歳、女性87歳ですので、「高齢者の定義を75歳に」というのは妥当だと思います(表1)。しかし、現在、わが国の健康寿命※は、男性71.2歳、女性74.2歳ですので、このままでは「高齢者になったときには、すでに健康寿命は尽きている」という事態に陥ります。健康寿命の延伸が「元気な長寿」にとって不可欠で、高血圧の制圧はその基本です。

※健康寿命…「平均寿命」に対し、介護を受けたり寝たきりになったり、制限を受けずに日常生活を送れる期間のこと。

元気な高齢者の特徴とは?

元気な長寿の方々には、肥満の人はいない、喫煙者はいない、血圧は低めの人が多い、運動している人が多い、老後も働いている、などの特徴のあることがわかります(表2)。

日本人の肥満指数(BMI)は経年的に右肩上がりで、肥満の解消はきわめて大きな意味を持ちます。メタボリックシンドロームの基本病態は内臓肥満で、こうした内臓肥満の増加により、寿命の短縮が加速しています。「腹八分は長寿の秘訣」とは、わが国の先人の叡智です。

喫煙は日本人の生命をおびやかす最大の危険因子であり(図2)、禁煙は不可欠ですし、受動喫煙は根絶しなければなりません。私は、日本心臓病学会の禁煙推進委員長(生活習慣病対策委員長)を務めておりますが、加熱式タバコを含めて受動喫煙防止を徹底したいと思います。

また、1日に10万回動く心臓にとって、高血圧は直接的なストレスです。高血圧は喫煙と並ぶ危険因子ですが、現在、治療を受けて降圧目標に達する高血圧患者さんは、全体のわずか4分の1にすぎないという「高血圧パラドックス」が問題になっています。少し血圧が高いくらいは、患者さんも医師も「まあ、いい~んでない?」という雰囲気になり、双方で「そだね~」とこれを放置する結果、「知らんぷり高血圧」ができあがります(表3)。これを撲滅してしっかり血圧をコントロールすることが重要です。そのために減塩をはじめとする生活習慣を是正することは不可欠です。

ウォーキングをはじめとして、運動はあらゆる生活習慣の基本です。毎日15分の運動を続けると寿命が3年延びるともいわれます。また、高齢者の生きがいも重要です。元気な高齢者には、圧倒的に働いている方が多いとされています。働くことが高齢者の生活の基本となるのは遠くない将来のことであり、働くことが生きがいそのものであることは疑いのないことです。2018年に話題になったスーパーボランティアの尾畠春夫さんのような、ボランティア活動は精神的にも肉体的にも理想的と思います。

健康長寿達成のために日々の生活習慣の修正を

健康長寿を達成するためにも、「まずは、皆さんが可能な範囲で、日々の生活習慣の修正から始めましょう」と強調させていただきたいと思います(表4)。

「”こうれい”ですので、先生のご略歴をご紹介します」といわれると、「高齢とは何ごとだ!」と怒っているうちは、私もまだまだ元気と思う今日この頃です。