今日から身体を動かそう!知っ得・納得 運動の効用

今日から身体を動かそう!知っ得・納得 運動の効用

京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター EBM推進部 教授
上嶋 健治 先生

「運動をしなくては」と思い立っても、長く続けるのはなかなか難しいものです。毎日の生活のなかに上手に運動を取り入れ、健康を手に入れましょう。運動の効用、無理なく続けるコツについて、京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センターEBM推進部 教授の上嶋健治先生が紹介します。

心臓病でも運動 !?「心臓リハビリテーション」とは?

「心臓リハビリテーション」という言葉をご存じですか?心臓病後の患者さんが自転車こぎなどの運動を行うことです。昔は心臓病の人は安静が常識でしたが、現在はそれが非常識となっています。心筋梗塞になると、心臓の筋肉(心筋)の一部が死んでしまうため、傷が癒えるまでに3~4週間かかります。しかし、その間、安静にしていると、かえって弊害が起こることが明らかになり、1968年には米航空宇宙局(NASA)の運動生理学者Saltinらが、無重力下に置かれた宇宙飛行士の筋力低下には、運動療法が有効であることを証明しました。
以降、アメリカでは心筋梗塞後の運動療法が普及し、遅れること十余年して、日本でも心臓リハビリテーションが導入されました。1980年、心筋梗塞患者さんの在院日数は77日でしたが、現在、当院では5日であり、心臓リハビリテーションが早期離床、早期退院に有効であることがわかります。

米国医療政策研究局(AHCPR〔現:AHRQ〕)は、過去の多くの研究から心臓リハビリテーションの効果を検証し、①運動能力、②自覚症状、③脂質(コレステロールや中性脂肪)代謝、④喫煙(禁煙)、⑤QOL(生活の質)、⑥死亡率、⑦安全性の7項目に太鼓判をつけました。これにより、心臓リハビリテーションは早期離床、早期退院を目的に行うだけでなく、健康寿命の改善を期待した立派な医療行為であることが認められたのです。

なぜ、運動は心臓によいのか。運動には二つのメカニズムがあるといわれています。一つは「中枢効果」で、運動が心臓そのものに好影響を与えるというものです。もう一つが「末梢効果」で、運動によって血管反応性、血流、酸化酵素の量、筋肉の質などが改善するというものです。

心臓は1日10万回拍動していますが、週3回、1回30分、120拍/分の運動を行っても、心拍数は0.8%しか増えません。つまり、末梢効果が大きいわけです。心臓リハビリテーションも必ずしも傷んだ心臓を癒しているわけでなく、末梢効果を期待して行われます。ということは、心臓が傷ついていない健康な人にもよいということになります。

運動不足と「肥満」「糖尿病」の危険な関係

長寿県として知られる沖縄県は、1985年に1位だった男性の平均寿命が2000年に26位まで急落し、「沖縄クライシス」「26ショック」と呼ばれました。長野県や福井県が上位を維持するなか、なぜ沖縄県だけ転落したのでしょうか。原因は、BMI 25以上の肥満者、さらにメタボリックシンドロームのリスク保持者が多いことにあります。BMI(Body Mass Index:肥満指数)は、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出でき、25以上は肥満、22が標準体重といわれています。

BMIが25を超えると糖尿病が急増します。では、糖尿病になると何がいけないのでしょうか。

私たちは4,728人の高血圧患者さんを対象に臨床研究を行い、糖尿病と冠動脈疾患(心筋梗塞など)にかかったことがあるかどうかが、心臓病や脳卒中の発症にどのように影響するかを調べました。いちばん病気になりやすかったのは糖尿病も冠動脈疾患の既往(起したこと)もある人、いちばん病気になりにくかったのはどちらもない人でしたが、糖尿病だけある人と冠動脈疾患の既往だけある人は、病気の発症率がほぼ同じでした。つまり、糖尿病は心筋梗塞に匹敵するこわい病気だといえます。
糖尿病予防にも運動が有効です。1日1時間早足で歩く、または1日2時間家の中で立っているだけで、糖尿病や肥満が改善するといわれています。運動不足が健康に及ぼす影響は大きく、海外ではテレビの視聴時間が1時間増えるごとに心血管疾患関連死が18%増えるという報告もあります。また、別の研究でも、自動車とテレビを所有する人は、心筋梗塞になりやすいことがわかっています。

わが国でも、糖尿病患者が増加している背景には、摂取カロリーに占める脂質の増加と自動車の登録台数の増加があると考えられます。

運動不足は肥満を招きます。30代男性200人を対象に行ったアンケートでは、約3割が「学生時代より10kg以上太った」と回答し、2kg以上太った人が全体の75%にのぼりました。タバコと違って「太っていても誰にも迷惑をかけていない」という方もいらっしゃいますが、宮城県のある町で、運動不足、肥満、喫煙が医療費に及ぼす影響を調べたところ、医療費を押し上げるいちばんの要因は運動不足であることがわかりました。また、イギリスの研究では、肥満者は非肥満者に比べ、労災申請の費用、医療費、欠勤日数が多く、こうしたデータからも「肥満は迷惑」といわざるをえません。

運動のすすめ-運動を続けるための6つのコツ-

国民の健康づくりを目的に、厚生省(当時)が2000年にスタートした「健康日本21」では、肥満者を減らすべく、1日の歩数を男性8,200歩、女性7,300歩から、それぞれ1,000歩増やすことを目標に掲げました。しかし、2002年の中間報告では、歩数が減り、肥満者が増えたのが現実でした。

厚生労働省は2006年に「健康づくりのための運動指針2006」を策定、エクササイズという運動量の単位を設定し、生活習慣病を防ぐためには1週間に計23エクササイズ(中強度以上の運動〔速歩、ジョギング、水泳など〕を4エクササイズ、中強度以上の生活活動〔歩行、床掃除、子どもと遊ぶ、介護、庭仕事など〕を19エクササイズ)行うことを推奨しています。エクササイズはMETS(メッツ)という単位が用いられ(座って安静にしているときの状態が1メッツ。普通に歩いた場合は3メッツ)、運動強度が弱いと長時間、強いと短時間で1エクササイズに相当します。

さらに2013年、いまより10分多く身体を動かすことを目指す「+10(プラス・テン)から始めよう」という指針が出て、18~64歳は1日60分(6,000歩)、65歳以上は1日40分(4,000歩)が目標に掲げられました。会社員なら「早歩き、自転車通勤」「階段を使う」「遠い店に食事に行く」、主婦なら「きびきびと掃除・洗濯」「歩いて買い物」といった、具体例が示されています。

そもそも、男性は女性に比べて運動不足になりがちで、それが寿命の差にもなっています。「おい、新聞」「おい、灰皿」と自分では動かない、晩酌で一品多いといった生活は見直しましょう。

運動を続けるための6のコツ

運動の欠点は、なかなか続けられないことです。そこで、続けられるコツをご紹介します。

  1. できることから始める:完璧を期すのをやめましょう。完ぺき主義は日本人の悪い癖です。最善を求めすぎない。とりあえずウエアやシューズを買うのはやめましょう。
  2. 日常生活をいかす:運動は30分1回でも10分3回でも効果は同じです。小分けにしたほうが、むしろ膝や腰を痛めにくいといわれています。ふだんの通勤や買い物、掃除などをひと工夫するようにしましょう。
  3. 三日坊主を恥じない:3日でもやった自分を褒めてみましょう。三日坊主も10回やれば1カ月。自己嫌悪に陥る必要はありません。
  4. それなりの目標を掲げる:「英語がうまくなりたい」と思うだけでは上達しませんが、「国際学会で発表する」という目標があれば頑張れますよね。ときには見返り、自分へのご褒美も大切です。
  5. 数値に一喜一憂しない:何よりも継続が大切。体重を唯一の指標にする必要はありません。
  6. 楽しくやる:悲壮感を漂わせてはいけません。運動は健康への唯一の方法ではありません。「健康のためなら死んでもいい」ということはありえません。

運動にはさまざまな身体的効果があります。糖尿病、肥満、心臓病などを防いで、健康寿命を延ばしてくれますし、「生活の質」もよくなります。運動に勝る予防医療はありませんので、ぜひ積極的に身体を動かしていただきたいと思います。

「私の心臓は大丈夫?」「この食事量で大丈夫?」「いまの運動量で大丈夫?」と常に自分に問いかけてみてください。あなたの心臓を守るためにも、運動について見直していただければ幸いです。

まとめ

  1.  運動は、糖尿病、肥満、心臓病などを防いで、健康寿命を延ばします。
  2. マメ(真面目に身体を動かす)に働く人が、マメ(健康)で長生き。
  3. 心臓の健康を人任せにしてはダメ!自分の心臓は自分で守りましょう。