自治医科大学 公衆衛⽣学部門・循環器内科学部門 准教授
桑原 政成 先生

人は血管とともに老いると、古くから言われています。優れた臨床医かつ医学教育者としても有名なWilliam Osler先生も、「人は血管とともに老いる」ことを啓発されていました。本日は、ヒトの血管の状態をアセスメントする方法について、説明いたします。
人の血管は動脈、静脈、そして毛細血管からなっています。動脈は心臓から酸素の豊富や血液を全身に送る血管です。一方、静脈は全身から酸素の少ない血液を心臓や肺に戻す血管です。動脈と静脈を繋ぐのは毛細血管で、組織に酸素や栄養素を供給すると共に、老廃物を回収する役割もあります。人には非常に多くの細い血管があり、イラストでイメージされる何千倍、何万倍もの血管が存在しています。
血管が硬くなって弾力性が失わられた状態を動脈硬化と言います。また、血管内にプラーク(脂肪の塊)がついたり、血栓が生じたりすると、血管が詰まりやすくなります。血管は年を取るごとに、動脈硬化が進み、脆く、狭くなりやすくなります。血管の状態を把握し、状態に応じて、早期から動脈硬化を抑える対策を行うことが重要です。
血管の状態を把握する最も身近な方法に、血圧測定があります。最近、高血圧のガイドラインが改訂され、2025年8月に「高血圧管理・治療ガイドライン2025」が発刊されました。高血圧の診断はこれまでと同様に、診察室血圧が140/90 mmHg以上、家庭血圧が135/85 mmHgとされ、高値血圧は診察室血圧130/80 mmHg以上、家庭血圧125/75 mmHg以上とされています。
今回のガイドラインで変わった点は、治療目標となる診察室血圧130/80 mmHg未満、家庭血圧125/75 mmHg未満が、高齢者や、腎疾患等の合併症を持つ患者を含め、全ての患者で統一されたことです。治療を開始される際には、診察室血圧130/80 mmHg未満、家庭血圧125/75 mmHg未満を目標にして下さい。ネットニュースで、高血圧の基準が変わったという間違った情報が見受けられましたが、高血圧の診断基準は変わっていません。特定健診での受診勧奨の血圧は以前と変わらず160/100 mmHg以上ですが、こちらはすぐに医療機関を受診することを勧める血圧であり、高血圧の診断基準とは違う点を誤解しないでください。
診察室血圧に基づく、脳心血管病のリスクの層別化が、ガイドラインで示されています(図1)。65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかがあると、血圧が130/80 mmHg以上の高値血圧の段階でも中等リスクになります。また、脳心血管病の既往、心房細動、糖尿病、蛋白尿のある慢性腎臓病がどれかひとつある、もしくは65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のうち3つ以上あてはまる場合には、高リスクとなります。これらのリスクのある方は、血圧が130~139/80~89 mmHgと高血圧症の一個手前の段階であっても、脳心血管病になりやすいことをご理解して頂き、治療目標である診察室血圧130/80 mmHg未満、家庭血圧125/75 mmHg未満への血圧コントロールを行うことが大切です。

75歳以上の高齢者に対しては、健康・機能状態によるカテゴリー分類と降圧指針が示されています。健常な方の降圧目標は130/80 mmHg未満ですが、外来通院に介護が必要な手段的ADLが低下した患者では収縮期血圧140 mmHg未満を、外来通院が困難となった基本的ADLが低下した患者では収縮期血圧150 mmHg未満を目標にし、収縮期血圧が120 mmHg未満になる場合は、降圧薬の減量が勧められています。また、予後が短い患者さんに対しては、個別の判断になりますが、収縮期血圧140~160 mmHgを目標とし、降圧薬の段階的な減量・中止を考慮することが勧められます。高齢の患者さんに対しては、状態に合わせた降圧管理を行って頂ければ幸いです。
血圧の測定は、上腕で行うことが最も推奨されています。家庭で使われる、腕に巻く形が一般的ですが、医療機関だと腕を通す固定式の自動血圧計もあります。ただ、上腕での血圧測定が困難な患者さんでは、手首での血圧測定も選択肢になります。また最近は、ウェアラブル血圧計というスマートウォッチで血圧測定も可能となってきています。上腕での血圧測定を基準としつつ、用途に応じて各種デバイスを活用していただけたらと思います(図2)。

血圧の左右差を調べることも、脳心血管疾患のリスク評価に有用です。例えば、左右の上腕の収縮期血圧差が15 mmHg以上であると、閉塞性動脈硬化症や脳心血管疾患の合併が多く、脳心血管死亡率、総死亡率が高いことが知られています(Lancet. 379: 905-14.2012)。また、上腕の足関節の血圧を同時に測定し、足関節血圧/上腕血圧比を算出するAnkle Brachial Index(ABI)という検査も有用です。一般的に足首の血圧の方が、上腕の血圧より高めですので、ABIは1以上が正常となります。ABIが0.9以下の患者さんは、下肢の血管が狭くなる閉塞性動脈硬化症の可能性が高いことが示唆されます。
ABIを測定する際には、Brachial-ankle Pulse Wave Velocity(baPWV)という脈波伝播速度も同時に測定可能で、血管の状態のリスクアセスメントに有用です。血管が硬くなると血流速度は速くなるため、baPWVが1800 cm/sec以上は、動脈硬化の高リスクと判断されます。
他の血圧に関連する検査としては、上記と同様に両手両側の血圧を仰臥位で測定するCardio-Ankle Vascular Index(CAVI):心臓足首血管指数があり、大動脈起始部から足の血管までの動脈の弾性を評価します。CAVIは加齢、男性、動脈硬化性疾患を有すると高くなる特徴があり、9.0以上で動脈硬化の可能性が高いことが示唆されます。
血圧以外の血管のアセスメントの方法としては、血管内皮機能の検査としてFlow-mediated dilation(FMD)があります。動脈は、内膜、中膜、外膜の3層構造になっていますが、FMDは主に内膜の機能、血流依存性の血管拡張反応を見ています。安静時に上腕動脈の血管径を測定し、5分間の駆血後、駆血解除45-90秒後の最大拡張を観察し、拡張幅(最大拡張径—安静時径)/ 安静時血管径 (%)が4%未満だと、血管内皮機能障害と判断します(正常値は7%以上)。FMDは、血管狭窄など器質的変化が生じる前に、血管の機能的変化を見ることができるとされ、動脈硬化の早期評価に有用と考えられています。
直接血管を評価する方法としては、頚部動脈エコーによる頸動脈のIntima-media thickness(IMT):内中膜厚の測定が有用です。頸動脈のIMTが1.1㎜を越えると異常とされ、1.5㎜以上で頸動脈プラークの存在が示唆されます。他に血管を直接評価する方法としては、Magnetic Resonance Angiography(MRA):磁気共鳴血管画像検査や、心臓を栄養している血管(冠動脈)を透視下で造影する冠動脈造影検査などがあります。
血管の状態のアセスメントのまとめです。図3の通り、動脈硬化の進展に応じた様々な検査があり、血管年齢を推定することも可能になってきています。動脈硬化の早期発見は、循環器病の危険因子、具体的には高血圧、糖尿病、脂質異常、脂質異常症、高尿酸血症等の早期発見、早期治療にもつながります。禁煙や、食事、運動などの生活習慣の改善と共に、各危険因子に対する適切な治療を行うことで、多くの循環器病は予防可能となります。血管の状態を適切にアセスメントすることで、循環器病の予防につながることを願っています。

(注)本内容は、2025年12月13日に開催されたSWC協議会第5回動脈硬化予防啓発分科会シンポジウム「動脈硬化予防に役立つ検査やアプリ」での講演内容をもとに作成しました。
