生活習慣改善に役立つアプリ―「塩分と血圧管理ノートアプリ」の紹介

第一三共株式会社 プライマリ・メディカルサイエンス部 部長
安田 義 氏

安田 義(第一三共株式会社 部長)

弊社は、新薬の開発や製造販売と並び、一般の方々、患者さんにより良い生活を送っていただくための様々な取り組みをしています。例えば、医療用医薬品の適切な使用のための情報提供、あるいは薬局ドラッグストアなど、処方箋なしでご購入いただけるOTC医薬品の情報提供をしています。また、患者さんの声をもとに製剤や包装を改良していく、例えば、錠剤のPTPシートに「高血圧症のお薬です」という表示、錠剤に製品名(略語)を入れる等もしています。また、高齢者の生活サポートを目的に、高齢者生活サポートサイトで「ずーっとすこやか」といったコンテンツを提供しています。
現在、日本人の成人約4300万人、成人の3人に1人が高血圧の状況で、その大きな原因の一つが、塩分過多の食生活にあると言われています。高血圧は自覚症状が少なく、心臓や脳の重大な合併症を引き起こす可能性があり、サイレントキラーと呼ばれます。
2025年に高血圧管理・治療ガイドラインが改定され、目標値がよりシンプルに定められました。家庭血圧125/75mmHg未満、診察室血圧130/80mmHg未満、塩分摂取量6g/日未満とされています。
日本では約1,600万人が降圧薬治療を受けていますが、欧米と比較して目標血圧値に到達している割合が低く、血圧値が正常化されている割合は3割を切るぐらいです。約7割は血圧をコントロールができていない状況です。この理由として、塩分摂取量が多いことが原因の一つとされています。一日の日本人の平均塩分摂取量は約10gで、理想的な摂取量の1.5倍ぐらいの食塩を摂っている状況です。実際に、どれくらい食塩を摂っているかを日常でモニタリングすることが重要ですが、難しいのが現実です。また、降圧薬をしっかり服薬していただくことも大事です。
そこで、高血圧の予防と改善に向けた「塩分と血圧管理ノートアプリ」の開発を弊社で行いました(図1)。患者さんに記録を継続していただくには、記録したデータを見える化していくことが非常に重要です。食事内容から実際に塩分量を換算するのはなかなか大変なことですが、実感することで意識改革の促進になると考えます。

塩分と血圧管理ノートアプリの開発背景と主な利用対象を示した図。高血圧患者や予備群、生活習慣病リスクを抱える人を対象に、記録の継続や行動変容を支援する目的で開発されたことが示されている。

主な利用対象者は、高血圧の患者さんとその予備群、生活習慣病のリスクを抱える方、そして健康に関心の高い一般の方、保健指導を行う医療・行政の関係者皆さんを想定しました。
アプリの4つの機能として、「血圧管理」「塩分推定」「服薬管理」「レポート出力」があります。アプリを使うと日々の血圧と脈拍を簡単に記録でき、グラフ化により推移が直感的に把握できます。塩分推定は、毎食の写真をAIが分析して自動で塩分量を推定します。また、充実した食品データから選択できる形になっています。同時に、栄養素も記録します。
服薬管理は、「服薬アラート機能」で飲み忘れ防止ができ、最新の処方薬データベースを搭載しています。レポート機能として塩分摂取量と血圧の関連性をグラフ化でき、印刷用のレポート機能もあります。

塩分と血圧管理ノートアプリの4つの機能を示した図。血圧管理、塩分推定、服薬管理、レポート出力の機能により、日常の健康管理と行動変容を支援することが示されている。

このように、記録したデータを見える化をすることでモチベーション向上に繋がり、患者さんと医師、保健師とのコミュニケーションに役立てられると考えます。例えば、塩分どうですか? 最近、食事どうですか? といった話になるかと思いますが、実際に何を食べたか、どれぐらい塩分を摂っているのかということが一目でわかり、指導の質の向上に繋がっていくと考えます。

このアプリはApp Store、Google PlayのQRコードからどなたでもアプリをダウンロードいただけます。ただし、このアプリはあくまでも健康管理支援ツールであり、診断・治療行為の代替ではないということをご理解いただきたくお願いします。

地域での活動と連携の可能性についてですが、医師による外来指導や、保険指導での活用で、データを元に数値に基づいたアドバイスが可能になり、より具体的な生活指導が可能になります。また、健康意識の向上に役立つと思います。地域全体の健康増進として、地域特有の健康課題を把握して効果的な予防、施策の立案に活用できるのではないかと考えます。

生活習慣と食事管理は、高血圧治療・予防の基本となるものです。薬物療法と並行して、日常的な生活習慣の改善がやはり重要で、特に塩分摂取量の管理は、日本人にとって優先度が高い課題と考えます。

ご紹介した「塩分と血圧管理ノートアプリ」で日頃の記録を簡便化し、結果を可視化することが、患者さんの行動変容を促す健康管理のサポートに繋がると思います。また、医療機関、行政、地域住民が連携することで、より効果的な高血圧予防と健康増進の取り組みが可能となるのではと考えています。このアプリが「予防医療の推進」と「健康寿命の延伸」に貢献でき、皆さんの地域の健康増進活動の一助となれば幸いです。

(注)本内容は、2025年12月13日に開催されたSWC協議会第5回動脈硬化予防啓発分科会シンポジウム「動脈硬化予防に役立つ検査やアプリ」での講演内容をもとに作成しました。