動脈硬化予防に役立つ検査やアプリ
「血管の状態のアセスメント」
自治医科大学 准教授 地域医療学センター公衆衛生学 兼 循環器内科学
桑原 政成 先生

人は「血管とともに老いる」といわれます。年齢とともに血管は少しずつ硬くなり、弾力を失っていきます。しかし、その変化は自覚しにくく、気づかないうちに動脈硬化が進行していることも少なくありません。循環器病を予防するためには、まず現在の血管の状態を知り、適切にアセスメント(評価)することが大切です。
血管の状態を知る最も身近な方法が血圧測定です。2025年8月に改定された「高血圧管理・治療ガイドライン」では、すべての患者において、診察時血圧を130/80mmHg未満に保つことが治療目標とされています。一方、特定健診では、血圧が160/100mmHg以上の場合、「すぐに医療機関を受診すること」が求められています。これは、脳や心臓の病気につながるリスクが高い状態を見逃さないための目安です。なお、最近の報道では、「高血圧の基準が引き上げられた」といった誤解を招く表現も見られましたが、高血圧の診断基準そのものが変更されたわけではありません。現在も、高血圧の基準は140/90mmHg以上とされています。この段階では、まず生活習慣の改善に取り組み、それでも改善がみられない場合に医療機関の受診を検討することが勧められています。160/100mmHgは高血圧の新たな基準ではなく、「早めの受診が必要な目安」である点を正しく理解することが重要です。

血圧は数値そのものを見るだけでなく、年齢や性別、脂質異常症、喫煙などの要因と合わせて評価することで、将来の脳心血管病のリスクをより具体的に考える手がかりになります。また、左右の腕で血圧に差がある場合、動脈の狭窄や循環器疾患が隠れている可能性があるため、注意が必要です。
血管の状態をさらに詳しく調べる検査として、ABI(足関節上腕血圧比)、PWV(脈波伝播速度)、CAVI(心臓足首血管指数)などがあります。これらの検査では、血管の硬さや血流の状態を数値として確認でき、「血管年齢」の目安として活用されることもあります。検査結果は生活習慣の改善や治療によって変化する可能性があるため、継続的に把握することが予防につながります。
さらに、動脈硬化のごく初期段階の変化を捉える方法として、血管内皮機能を評価するFMD検査があります。血流の変化に対する血管の反応をみることで、目に見えない早い段階の変化を知ることができます。

動脈硬化が進行すると、頸動脈エコーによるIMT(内中膜厚)の測定によって、血管壁の厚みやプラークの有無が確認されます。
これらの検査を組み合わせることで、血管の状態を多角的に把握し、循環器病の早期発見につなげることが可能になります。
血管の状態を知ることは、特別な治療のためだけではありません。日々の生活を見直すきっかけにもなります。血圧や検査結果を踏まえ、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった危険因子に早めに向き合うことが、将来の循環器病予防につながります。まずは、身近な血圧測定から、血管の健康を意識してみましょう。
