血圧管理に役立つ尿検査-尿中ナトカリ比

公益社団法人 地域医療振興協会 へき地医療研究センター アドバイザー
中村 正和 先生

中村 正和 先生(へき地医療研究センター アドバイザー)

高血圧は日本人の死亡リスクの中でも特に大きな要因です。実際、日本では高血圧が十分に治療・管理されていないことによって、年間およそ20万人が亡くなっていると推計されています。

高血圧の予防や重症化を防ぐためには、日々の生活習慣、とくに食事の内容を見直すことが重要です。なかでも、食塩に含まれるナトリウムを減らすことと、カリウムを十分にとることは、血圧管理の基本とされています。

しかし、日本人の食塩摂取量は、男女平均で1日約9.6gと、日本人の目標量である7gを大きく上回っています。一方で、血圧を下げる働きのあるカリウムは、十分にとれていない人が多いことが分かっています。

こうしたナトリウムとカリウムの摂取バランスを、客観的に評価する指標として、近年注目されているのが「尿中ナトカリ比(尿中Na/K比)」です。これは、尿中のナトリウム濃度をカリウム濃度で割った値で、日々の食事におけるナトリウムとカリウムの摂取バランスを反映します。

ナトリウムやカリウムは摂取量の多くが尿として排泄されるため、尿検査によって比較的簡便に評価できる点が特徴です。測定は随時尿で可能で、複雑な計算や補正を必要としないため、健診や保健指導の場でも活用しやすいとされています。この指標の大きな特徴は、日常の食事内容を反映しやすく、生活習慣の見直しにつなげやすい点にあります。

尿中ナトカリ比の目標値は、至適目標が「2未満」、まず目指したい実現可能目標が「4未満」と設定されています(図1)。日本人一般集団では平均値が4前後であることが示されており、改善の余地が大きい指標と言えます。

尿中ナトカリ比の目標値を示した図。健常日本人の目標として至適目標は2未満、実現可能目標は4未満と示されている。

尿中ナトカリ比の特徴としては、安価かつ簡便に測定可能であり、医療や健診等で導入しやすい点があげられます。また、尿中ナトカリ比が高いほど高血圧や循環器病のリスクが高くなることが報告されており、ナトリウムやカリウムを単独で評価するよりも、リスクとの関連が強いことが示されています(図2)。

尿中ナトカリ比と循環器病発症リスクの関連を示した図。尿中ナトカリ比が高いほど循環器病発症リスクが高いことが、24時間尿ナトリウム・カリウム排泄量の解析から示されている。

一方で、この指標を正しく活用するためには、いくつか知っておきたい点もあります。尿中ナトカリ比は1日の中でも変動します。一般に、睡眠中や早朝は高く、日中は低くなる傾向があります。そのため、1回の測定結果だけで判断するのではなく、異なる時間帯に採取した尿を週に4回以上測定し、その平均値を見ることが推奨されています。また、腎機能の状態や服薬状況によっては、結果の解釈に配慮が必要な場合もあります。

血圧管理というと「減塩」が強調されがちですが、それだけでは十分ではありません。減塩に加え、野菜・果物・いも類・きのこ・海藻類、乳製品などからカリウムを意識して摂取することが、ナトリウムとのバランスを整えるうえで大切です。なお、乳製品については、動脈硬化への配慮から、高血圧学会のガイドラインでは低脂肪乳が推奨されています。

尿中ナトカリ比は、自身の食塩とカリウムの摂り方を検査結果として「見える化」し、気づきや動機を高め、無理のない行動変容につなげるための有用な指標として、今後さらに活用が期待されています。

(注)本内容は、2025年12月13日に開催されたSWC協議会第5回動脈硬化予防啓発分科会シンポジウム「動脈硬化予防に役立つ検査やアプリ」での講演内容をもとに作成しました。