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神戸大学医学部附属病院 病院長 神戸大学 循環器内科 教授 平田 健一 先生

動脈硬化はなぜ起こる? その原因と治療

神戸大学医学部附属病院 病院長
神戸大学 循環器内科 教授
平田 健一 先生

心筋梗塞や脳卒中の原因となる動脈硬化はなぜ起こるのでしょうか。原因にはどのようなものがあり、どうやって治療するのでしょうか。「ニコニコげんきな長生きのために! 脳心血管の病気を予防しよう」をテーマに行われた第50回日本動脈硬化学会の市民公開講座(2018年、大阪市)での平田健一先生(神戸大学医学部附属病院 病院長/神戸大学循環器内科 教授)の講演をまとめました。

動脈硬化はなぜこわい?-動脈硬化が引き起こす病気-

動脈硬化によって心臓や脳の血管が詰まると、突然死したり、寝たきりになって、生活に支障をきたすことが知られています。2014年、ドカベンの愛称で親しまれた元プロ野球選手の香川伸行さんが急逝されました。また、2011年、サッカー元日本代表で横浜F・マリノスから松本山雅に移籍した松田直樹選手が34歳の若さで急死されました。二人とも急性心筋梗塞が原因でした。タレントの松村邦弘さんは、東京マラソンに参加中、急性心筋梗塞による心室細動(不整脈の一種。心室が震えた状態になり、心臓本来の機能がはたらかなくなる)で心肺停止の状態になりました。幸い、普及しつつあったAED(自動体外式除細動器)により一命は取り止めましたが、一足遅ければ突然死していた可能もあります。

当院の患者さんの例をご紹介します。会社員で、毎年、健康診断で高血圧と脂質異常症を指摘されていました。ふだんから血圧が高く、肥満があり、タバコも若いときから1日40本吸っているなど、危険因子はたくさんありましたが、自覚症状はまったくありませんでした。そのため、家族は受診を勧めていましたが、本人は放置していたそうです。この患者さんが、入浴後、胸の痛みを訴え、意識を失い、大学病院に搬送されてきました。

心臓に血液を送っている冠動脈(図1)が動脈硬化で詰まってしまうと、心筋梗塞を起こします。この患者さんも血管の付け根が狭くなり、ほとんど詰まっている状態でしたが、カテーテルで血管の狭くなった部分を広げる治療を受け、現在は社会復帰されています。

図1 冠動脈とは?

最近、心・脳血管に対するカテーテル治療が、多くの医療機関で行われるようになりました。血管の狭くなった部分、詰まっている部分をバルーン(風船)で膨らませて血液を流れるようにしたり、膨らませたあと、再び狭くなる(再狭窄)のを防ぐため、ステント(金属の網でできた筒)を留置したり、治療技術は進歩していますが、大事なのはこうした病気にならないことです。

現在、わが国の平均寿命は男性80.2歳、女性86.6歳( 厚生労働省:平成 25 年簡易生命表)と世界有数の長寿国になっています。しかし、健康寿命(介護を受けたり入院したりせず、元気で暮らせる期間)は、男性71.2歳、女性74.2歳で、平均寿命との差が男性で9.0年、女性で12.4年もあります。この差を短くして健康な状態で長生きするには、動脈硬化の進展を防ぎ、脳梗塞や心筋梗塞を予防することが非常に大切になってきます。

また、日本では1年間に約103万人が死亡していますが、その原因は、がん(30%)に次いで心臓病(16%)、脳血管疾患(13%)が多く、日本人の3分の1は動脈硬化を基盤とする疾患で亡くなっていることがわかります。命は助かっても、寝たきりになったり、心不全で入退院を繰り返さなければならない人が増えており、問題となっています。

動脈硬化の危険因子と進展のメカニズム

動脈硬化は、血管内にコレステロールがたまって、血管が狭くなる病態です。心臓の血管で起これば心筋梗塞や狭心症、脳の血管で起これば脳梗塞、足の血管で起これば閉塞性動脈硬化症の原因になります。動脈硬化は若いうちから始まっており、以前、ベトナム戦争で若くして亡くなった兵士を解剖したところ、多くの若者に動脈硬化がみつかりました。動脈硬化は最初のうちはまったく症状がありませんが、進行すると、血管が詰まり、血液が流れなくなって組織が壊死(えし)してしまいます。心臓に壊死が起これば、心筋梗塞となります。

コレステロールには、LDLコレステロール(悪玉)とHDLコレステロール(善玉)がありますが、LDLコレステロールが高いと動脈硬化になりやすくなります。また、動脈硬化には中性脂肪も影響することがわかっています。脂質異常症以外の危険因子としては、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙をはじめ、心電図異常や家族歴、また女性よりも男性のほうが高リスクなので注意が必要です(図2)。

このように動脈硬化を進める危険因子はさまざまですが、タバコは自分でやめられますし、ふだんから食生活に気をつけ、運動したり、体重をコントロールすることもできます。ただし、脂質異常症のなかには、食事療法などでは治らない病態もありますので、医師と相談のうえ、自身でコントロールできる危険因子をきちんと管理していくことが重要です。

図2 心筋梗塞の危険因子

危険因子があると、血管をしなやかに保つ一層の細胞(血管内皮)に傷ができます。傷かできると、それを治そうとして炎症が起こります。炎症は火事がくすぶっている状態であり、こうした状態が続くと、血管が酸化ストレスを受けてしまいます(図3)。

内皮細胞が傷ついた血管にはコレステロールがたまりやすく、動脈硬化が進んで、最終的に心筋梗塞を起こします。

図3 心筋梗塞が起こるメカニズム

イメージとしては、血管が錆びている状態、つまり、きれいな水道管も何年か経つと錆びがつき、最後は配水管が詰まってしまうのと同じです。したがって、血管をきれいな状態、若い状態に保つことが、長生きの秘訣(ひけつ)といえます。

血管を若く保つための生活習慣とは?

そのために必要なのが、食事療法や運動療法といった生活習慣の改善です。ハーバード大学栄養学教授のJean Mayerは、「亭主を早死にさせる10カ条」として、①太らせ、②お酒を飲ませ、③運動させず、④肉をたくさん食べさせ、⑤塩分の多い物を与え、⑥カフェインたっぷり、⑦タバコをすすめ、⑧夜更かしさせ、⑨旅行にも行かさず、⑩終始文句をいっていじめる、を挙げています。つまり、この反対の生活が長生きの秘訣といえます。

食事・運動療法だけではコレステロールをコントロールできない場合は、薬の力を借りることになります。マスコミなどでよく「薬は危ない」という特集がありますが、脂質の高い人はコレステロールを下げる薬を飲み、血圧の高い人は降圧薬を飲み、きちんと生活習慣のリスクを管理しておくことが重要です。噂に左右され、自己判断で飲んだり飲まなかったりするのはよくありませんので、主治医の指示を守って、正しく服用してください。

生活習慣の改善は、家族全員で取り組むことが大切です。お年寄り、働き盛りのお父さん、お孫さん、家族みんなで、今日から食生活などに気をつけていただきたいと思います。

まとめ
  • (1) 血管を健康に保つためには、今日から生活習慣を改善しましょう。
  • (2) 薬が必要な人は、医師の指示で必要な薬をきっちり服用しましょう。
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