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誰も教えてくれなかった心筋梗塞の新常識

東海大学 循環器内科学 教授
伊苅 裕二 先生

世界の死亡原因の第1位でもある心筋梗塞は、動脈硬化によって心臓の血管が詰まり、心臓の筋肉が壊死(えし)してしまう心臓病で、血管病ともいわれています。発症した瞬間、命を落とすこともあれば、将来、心不全の原因にもなるおそろしい病気ですが、心筋梗塞から命を守るために、知っておいていただきたいことがあります。2019年3月に横浜で行われた第83回日本循環器学会学術集会・市民公開講座(共催:日本心臓財団)での伊苅裕二先生(東海大学 循環器内科学 教授)の講演をまとめました。

心筋梗塞はどのような病気か?~症状と治療法~

狭心症と心筋梗塞の違いは、心臓に血液を送る血管(冠動脈)が動脈硬化などによって狭くなり、血液の流れが悪くなるのが狭心症、血管内に血のかたまり(血栓)ができ、血流が途絶えてしまうのが心筋梗塞です。血管の断面図は似ていますが、症状は大きく異なります(図1)。

図1 心不全の症状

治療法として、狭心症には、①薬物療法などの内科治療、②カテーテルで血管を広げる経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)、③手術などの外科治療、という3つの選択肢があり、より適切な治療法を医師と相談して決めていただくことになります。

一方、心筋梗塞は、PCIによって一刻も早く血管を広げる必要があります。以前、急性心筋梗塞による1ヵ月以内の死亡率は約30%でしたが、近年では6~8%にまで改善しています。

現在、日本人の死亡原因トップはがんですが、実はがんが1位の国は日本とフランスくらいで、全世界の死亡原因を調べた統計(2016年)によれば、心筋梗塞がダントツの1位です。

海外と比較して、わが国の心筋梗塞の発生数は少なく、2008年のデータでは米国の10分の1ほどです(日本27:米国208/10万人年)。しかし、急性期院内死亡率(発症直後に病院で亡くなる率)は米国同様に高く、再発率も2年で20%、慢性期死亡率も3年で20%と海外と同様の高い数字であり、いったん発症した患者さんの経過は決してよいとはいえません。

心筋梗塞の急性期治療には、現在、2つの方法があります。①血管の詰まっている部分を血栓溶解剤で溶かす方法と、②カテーテルで拡張する方法(PCI)です。

①②のどちらが優れているか、海外で術後の死亡や再発について検討した23の無作為試験(くじびき試験)の結果からは、いずれもPCIのほうが優れているという結果が出ています。

PCIでは、太ももの付け根や腕の脈をとる血管から、直径2mmほどの細い管を心臓まで挿入し、そのなかにカテーテルを通して、血管の詰まっている部分をバルーンで押し広げます。そして、再狭窄を防ぐため、ステントと呼ばれる金属製の筒を留置するのが一般的な方法です。

こうした医療技術の進歩で、心筋梗塞で入院後30日目までの死亡率が6~8%にまで改善したのは先述の通りですが、この数字は、欧米諸国はもとより、チリ、エストニア、トルコよりも悪い数字であり、医師として、わが国の現状を少しでも改善させたいと思っています。

心筋梗塞で命を落とさないために

心筋梗塞発症後は、心臓の筋肉(心筋)の細胞が死んで、急激に減少します。発症後4時間以内に血管を再開通できれば、細胞が死んでいくのを止めることができ、死亡率も減少します(図2)。つまり、最大限の治療効果を引き出すには、一刻も早い再灌流治療(詰まった血管を再び開通させるための治療)が必要です。

図2 がんと心不全の経過の違い

心筋梗塞を起こした患者さんは、ドクターヘリや救急車で病院に搬送されてきます。病院の入り口をくぐり、PCIで再開通させるまで「90分以内」というのが世界的な目標時間です。日本の平均時間は64分で、88.7%が90分以内に再開通できている計算になります。にもかかわらず、死亡率や再発率が高いのは、「病院に来る前」の時間が長いためと考えられています。

搬送が遅れるのには、図3のような理由が考えられます。心筋梗塞から命を救えるかは時間との勝負ですので、15分以上経験したことのない胸痛があれば、迷わず救急車を呼びましょう。

図3 心不全が悪化するきっかけ

心筋梗塞予防のカギは「コレステロール」

狭心症や心筋梗塞の原因として動脈硬化が知られています。動脈硬化の最大の危険因子はコレステロールです。コレステロールが多くなりすぎると、血管の壁のなかに余分なコレステロールがたまり、だんだん大きくなって血管の内腔(血液の通り道)が狭くなります。それが何かの拍子に破裂すると、血のかたまり(血栓)が血管を完全にふさぎ、そこから先の細胞が壊死(えし)してしまいます。つまり、心筋梗塞予防のカギはコレステロールにあるといえます。

「血糖(グルコース)」「中性脂肪」「コレステロール」の値は、健診でもよく問題となりますが、それぞれ特徴が異なります。血糖は水に溶けますが、中性脂肪、コレステロールは水に溶けません。血糖と中性脂肪は体内で燃やせますが、コレステロールは体内で分解できません。つまり、コレステロールは「不燃ごみ」で、大便にして捨てる以外、処理方法がないのです。

「不燃ごみ」とはいったものの、実はコレステロールは細胞膜を構成するために必要な物質です。細胞膜のほか、副腎皮質ホルモンや性ホルモンの材料になったり、胆汁酸の原料にもなります。細胞が家だとすると、コレステロールは不燃材料でできている外壁の建材といえるでしょう。

しかし、コレステロールは水に溶けないため、そのままでは血液の中に入れません。そこで、リポたんぱくという袋に入って、血液中を移動します。リポたんぱくには性質上、LDL、HDLという名前がついており、LDLの袋に入っているコレステロールをLDLコレステロール(いわゆる悪玉)、HDLの袋に入っているコレステロールをHDLコレステロール(いわゆる善玉)と呼びます。

血液中のLDLコレステロールは、細胞のLDL受容体(レセプター)を介して受け取られ、細胞内に取り込まれます。このレセプターをたくさん出す病気ががんです。がん細胞は、コレステロールをどんどん取り込んで増えるため、血液検査でコレステロール値が急に下がったらがんが疑われます。週刊誌などで、「コレステロールを下げるとがんになる」という記事を見かけることがありますが、コレステロールが低い状態は、がん細胞にとっては不都合といえます。

同様に「コレステロールを下げるとアルツハイマー病になる」という記事もありますが、これも真実ではありません。脳の血管には脳血液関門があり、血液中のコレステロールは通れません。脳のコレステロールはすべて脳内で作られ、余った分は血液に放出されます。血液中のコレステロールが脳に影響することはなく、反対に、アルツハイマー病の患者さんは、脳が委縮してコレステロールを合成できないため、コレステロール値が低くなると考えられています。

コレステロール研究では、米国の遺伝学者マイケル・ブラウンとジョセフ・ゴールドスタインが1985年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。彼らは、生まれつきLDL受容体が欠損している人がいることを発見し、LDLコレステロール値が600~1,000 mg/dLと高く、10代でも心筋梗塞になりやすい病気(家族性高コレステロール血症)の解明につながりました。

現在、LDLコレステロールの基準値は70~139mg/dLとされています。しかし、ブラウン&ゴールドスタインは、「LDL受容体は、LDLが2.5 mg/dLもあれば取り込める」として、「その10倍としても、LDLコレステロール値の正常値は25~60 mg/dL」と述べています。

現代内科学の父と呼ばれる循環器内科医、ブラウンワルド医師は現在89歳ですが、自身のLDLコレステロールを「30mg/dLまで下げている」と豪語しています。私の患者さんでも、LDLコレステロールが生まれつき30 mg/dLという方がいらっしゃいますが、実年齢は60歳なのに対し、血管年齢は22歳で、95歳以下で亡くなった身内はいないそうです。

コレステロールを下げる薬として、現在、世界中で使われているのがHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)です。スタチンは日本で発明された薬で、多くの無作為試験(くじびき試験)により死亡率の低下が認められています。心筋梗塞予防にも、コレステロール低下療法は有効ですので、コレステロールが高い方はきちんと治療して、積極的に下げることが大切です。

まとめ
  • (1) 心筋梗塞は世界の死亡原因の第1位。死亡率、再発率も高い。
  • (2) 早くPCIを受けるために、患者さん自身による遅れや転送の遅れを減らすことが必要。
  • (3) 心筋梗塞予防には、コレステロール低下療法が有効。
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